旅する教師の業務報告

「旅する教師」として「みんなを自由にする」活動をしています。ご査収ください。

期末試験での小さな挑戦、あるいは“受験勉強”と“課題探究”の境目で起こることについて

2学期の期末試験、高校3年生の数学では、選択制で「テイクホーム試験」を行った。「テイクホーム試験」は、ちょっと難易度高めの探究型の試験問題をあらかじめ配布し、当日までにその解答を準備する形式で、「海外大学ではよくあるんだよね」と学部時代の教授のドヤ顔を思い出しながら僕も生徒に説明した。

試験問題は

  • 「マイナス×マイナスがプラスになる」のはなぜか説明しなさい
  • 「分数のわり算は分子と分母を入れ替えてかける」のはなぜか説明しなさい
  • 三菱グループロゴマークを、図を使わずに説明しなさい
  • チェスのナイトの動きでチェス盤のマスをすべてまわりなさい
  • 数独ナンプレ)のルールと、その解き方を説明しなさい

など、全6題・40点分。

最後の2つは数学に関係ないように見えるかもしれないけれど、どちらも数学的な分析がされている。ちなみに数独の問題はとても高難度。

前提として該当のクラスについて説明すると、このクラスはセンター試験を受ける生徒(約1/4)と受けない生徒(約3/4)が混在しているクラス。
なので、試験問題を

  • 共通問題(数学IAの基本問題)…60点分
  • 選択問題…40点分

と分けた上で、選択問題を

  1. センター試験過去問の類題
  2. テイクホーム問題

とした。

もちろんこれは、1.がセンター試験を受験する生徒向け、2.が受けない生徒向けなのだけど、そこは特に指定せず「その場で好きな問題を解いていい」ということにした。

生徒はこの問題に納得してくれるのか、意欲的に取り組んでくれるのか、センター試験を受ける予定の生徒まで「楽そうだから」とテイクホーム試験に流れたらどうしよう、「こんなの数学じゃない!」とか「この問題を選ぶ人はズルい!」とか反発されたらどうしよう、などなど、やってみるまではいろいろと不安なこともあったのだけど、結果としてはなかなかオモシロいことが起こった。

なので、備忘録も兼ねつつ時系列的に記録しておきたい。


【課題配布当初】

テスト約3週間前にテイクホーム試験の課題を配布。共通問題と選択問題の配点なども明示した。
「問題が公開されている」「まだ3週間以上(≒授業が10回以上)もある」という安心感からか、2〜3割の生徒を除いてあまり取り掛からない。

【テスト3〜2週間前】

先に取り掛かっていた生徒は、図書館の本やネットのサイトなどを参考に解答を作成していく。
と同時に、「この課題は意外と難しい」という情報がクラス内に徐々に広まっていく。
そこで授業時、「テイクホーム試験は課題内容をそのまま試験に出します。40点分です」と念押し。
クラスにエンジンがかかりはじめる。
生徒の中でこの課題の難易度が共有され、「どこからどのように手をつければいいか」などの攻略法も広まっていく。

こちらの意図としては 「ナイトの問題」→「マイナス×マイナス」・「分数のわり算」→「三菱ロゴ」→「数独」→… のつもりだったが、生徒たちの前評判もほぼ同様となっていた。

【テスト2〜1週間前】

早くに取り掛かっていた生徒の中から、「答案を作ってみたので添削をしてください」「本番をイメージしたいので解答スペースの大きさを教えてください」などの要望が出る。どちらにも対応し、クラス全体に周知する。
早くに取り掛かっていた生徒は、この問題の難易度をさらに上方修正。「これならばセンター試験の過去問の方が点数が取れそう」と切り替える生徒も現れる。
そんな中、テイクホーム試験でなんとしても高得点を取りたい生徒たちは、答案添削を自主的に受ける。

【テスト1週間前〜】

なかなか取り掛からずにいた生徒たちも動き出し、周囲の生徒にポイントなどを聞いて回る。
そのような生徒たち向けに、一部の生徒が「ナイトの問題」の完全攻略法を考案し、放課後補習を自主開催。

廊下で1人でとても感動した。

「マイナス×マイナス」「分数のわり算」問題も、添削を受けた生徒の作った模範解答が流通しはじめる。

共通問題も同様に、得意な生徒が周囲にポイントを広めていた。こちらも見ていて嬉しくて仕方なかった。

早くに取り掛かっていた生徒は、残った高難易度問題の対策から共通問題の対策へとシフトしていく。

60点分ある基本問題を復習した方が高得点を取りやすいと判断した…?

生徒それぞれが、「自分は40点中の何点とりたいか」「そのためにどの問題をどれくらい解くべきか」「そのために試験勉強にどれくらいの時間を割くべきか」を考えながら計画を実行している印象。

【採点結果】

生徒が率先して対策していた「ナイトの問題」と「マイナス×マイナス」「分数のわり算」は満点の生徒も多く、奏功した様子。
「三菱ロゴ」を含む比較的高難易度の問題群は、積極的に添削を受けていた生徒は着実に高得点となるも、それ以外の生徒は点数が伸びず。
その意味では、試験問題を配付してからの取り組みがほぼ得点に反映された形となった。
結果として、選択問題での平均点はセンター試験類題とテイクホーム試験でほぼ同点。共通問題は(当然ながら)センター試験類題を選択した生徒の方が高いので、合計点はその分の差がついた。

ちなみにテイクホーム試験からセンター試験類題に乗り換えた生徒は「こっちで良かった」とのこと。

【終了後】

もろもろ初めての取り組みだったので手探りだったのだけど、いろいろと学びがあったように思う。

個人的な反省点は以下。

  • 途中、なかなかエンジンのかからない生徒がいたりといろいろ気を揉むこともあったけれど、最終的なテスト前の学習の風景はとても良かった
  • 特に、「期末試験で高得点を取る」という目標の中で、探究的な課題に向き合いつつ、生徒が自分に合った戦略を練り実行していた様子は、良い意味で想定外の結果だった
  • また、探究課題への取り組みに関しても、こちらが思ってもみない解法を生み出したり、次々に新たな着眼で挑戦したり、その内容を惜しげもなく周囲に展開していったりと、こちらも想像以上の動きが見られた
  • 結果論ではあるが、平均点がほぼ狙い通りになったことも良かった

本音を言うと、当初は『平均点に大きな差が出たらテイクホーム側の採点基準を変えるか…』などとセコいことも頭にあったのだけど、結果としてその必要はまったくなかった。

  • 反面、取り掛かりに火がつくまではなかなか思うようにいかないことも多く、反省
  • もっと簡単で取り組みやすい問題を最初に置いておくと、そこから入りやすくなるのかも…

ただしその場合、油断を誘わないことも大事。ここらへんはいわゆる『学び合い』授業の課題設定の難しさと根本は同じ。

  • 共通:選択= 6:4 の割合も要検討。もう少し共通問題を増やしても良かった
  • 「“どちらを選んだ生徒も納得感がある”という条件を満たすためにはどのようなテスト設計をするのがいいのか」については、こちら側としてももっと考察を深めなくてはいけない

今回は「平均点が同じくらい」という条件に置き換えて対処したのだけど、自分でもどこか足りない気がする。

…と、まぁ細かいことを言うともっといろいろあるのだけれど、あまり長くなってもアレなので、
結論としては とても楽しかった し、 やって良かった し、 私の趣味に付き合ってくれた生徒の皆さん、ありがとう ということ。

今回はここまで。