旅する教師の業務報告

「旅する教師」として「みんなを自由にする」活動をしています。ご査収ください。

(おそらく幾分先進的な)勤務校のコロナ対応についての情報共有、あるいは「シン・ゴジラ」に学ぶ学校組織の緊急時対応

勤務校のコロナ対応について、「コロナが落ち着いたらまとめよう」なんてことを思っていたのだけど、どうやら「アフターコロナ」はまだまだずっと先らしい、と気づいた今、こうやって書き出しています。

「そちらの学校のコロナ対応はどんな感じですか?」

この質問はとても困る。

率直に言うと、学校単位の決定や分掌・担当単位での対応が多すぎて書ききれないしそもそも全部は思い出せない。だけど、全国のいろんな学校の対応を見聞きする中で、勤務校の動きが世間の中では相当先を行っているであろうことは分かってきた。

勤務校の対応の内容と履歴、そしてその背景にあった職員室内の動きなど、全国の困っている学校にとっての少しでも役に立てればと思い、まとめたのがこの記事である。

 

まずは対応の内容とその流れを(思い出せるだけ)まとめたい。

※ 個人の記憶を頼りにした、4月17日時点での情報です。誤りが見つかり次第、随時修正していきますのでご了承ください。

 

2月・3月

  • ロシア・トルコからの留学生が早期帰国
  • 島根県が全国の一斉休校要請を拒否
  • 卒業式・卒業関連行事の縮小実施の決定(職員会議)
     * 予餞会の縮小実施
     * 卒業式の在校生不参加
     * 花道の中止
     * 卒寮式、卒塾式等の中止
  • 「コロナ対応に伴うオンライン授業実施について」の提示・承認(職員会議)
     * 島外出身生徒(島外生)が帰省先から帰島できなくなった場合を想定し、対象を島外生に限定
     * 島外生の実家における通信環境調査を実施
  • 4月の各種行事の見直し、授業でのグループワーク・ペアトーク禁止等を確認

 

4月1日〜10日

<7都府県に緊急事態宣言>
  • 入学式のオンライン実施を決定(職員会議)
     * YouTubeの非公開ライブ配信で実施
     * 電話連絡(電話口でURLを伝える)
  • 島外生が島に入る際に、ホテルでの5日間の経過観察期間を設定することを決定(臨時職員会議)
     * 新入生と在校生で来島日を別に設定(ホテルの定員内に収めるため)
     * 経過観察期間中は、新入生は課題対応、2・3年生はオンライン対応(下記参照)とする
     * ホテル代等の費用は自治体(海士町)負担
     * 来島に不安がある生徒はGW後まで戻らないことも可
     * 以上を各家庭に電話連絡
     * 新入生向けの課題を作成
     * 各種行事予定等の組み直し
  • 経過観察中の島外生(2・3年生)に対し、朝礼・授業をZoomでオンライン実施することを決定(職員朝礼)
     * 3月職員会議での決定に伴い実施
     * iPadへのZoomインストール
     * オンライン授業時に使用する課題を作成
     * 課題、iPadWi-Fi等の送付
     * 生徒へのZoomレクチャー
     * 教員へのZoomレクチャー
  • 経過観察中の健康観察方法、ホテルの部屋割、ホテル設備の使用ルール等の決定・周知(職員朝礼)
  • 保護者連絡・生徒への課題配信にベネッセClassiを活用することを決定(職員会議)
     * Classiは一昨年度より全校で導入済

 

4月10日〜17日

島根県内で初の感染者を確認 → クラスター感染の疑い>
  • 経過観察期間を5日間から10日間に延長させることを決定(臨時職員会議)
     * 寮内の待機期間と合計して計約2週間は島民の方(島内生)と接しない体制へ
     * 各家庭へ電話連絡
     * 経過観察期間延長にともなう追加分の課題を作成、送付
     * 各種行事予定等の組み直し
     登校への不安がある島内生にもZoomでのオンライン朝礼・授業を開始
  • Classiのシステムトラブルにより、連絡・課題配付を郵送に戻す
     * 新入生のClassi使用は登校開始後から
  • GWまで帰省を続けることを選択した島外生に、学校側での来島日を設定(運営委員会)
     * 来島日より2週間の経過観察期間を経て、GW後から登校へ
     * 各家庭へ電話連絡
  • Zoomオンライン朝礼・授業の実施
     * 授業内容はZoomでレコーディング
     * 生徒からの質疑応答等の時間も確保
  • 健康観察等で不安がある生徒への対応(随時)
     * 診療所からの往診等実施
     * 4月17日時点で大事に至る生徒はなし
<緊急事態宣言が全国に拡大>
  • 4月20日〜5月6日までの臨時休校を決定(職員会議)
     * 臨時休校中の課題を作成
     * 各種行事予定等の組み直し

……

変更に次ぐ変更で、自分でも、何が決まって・何が起こったのか・逆に何を今後すべきなのかが混乱しているのだけど、そんな混乱こそがこのコロナ対応の本質で、冷静になったら逆に分からなくなってしまうこともあるような、そんな気がしていたり。

ただ、結果としてZoomでのオンライン朝礼・授業が毎日実施できていることだとか、全国から集まる生徒たちを極力安全な形で島に戻すための仕組みだとか、県内や国内の状況が変わった際の即座の対応だとか、振り返って見ると多くのことを実現できているのは確かで、それがなかなか実行できない学校が全国に多くあるなか、勤務校や学校のある地域(隠岐島前)の底力を強く感じている。

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では、上の対応を行っていた際(現在進行形だけれど)、勤務校の職員室はどんな雰囲気だったのか。

 

一言で表すと、「シン・ゴジラ」だ。

最近ひさしぶりに(何十回目かの)シン・ゴジラを観て、あ、この映画は、新コロナ対応の勤務校を予言していたんじゃないか、というか、想定外の社会混乱にたいする対応の仕方の一種の「答え」が描かれているんじゃないかと、ずんずんと考えている。

思うに、勤務校のコロナ対応と「シン・ゴジラ」には、重なる点が大きく2つある。

 

「形式的な会議は極力排除したいが、会議を開かないと動けないことが多すぎる」「効率は悪いが、それが文書主義だ。民主主義の根幹だよ」

まずは会議。

上で挙げた決定がなされるたびに行われる、緊急の職員会議・職員打合せの数々。紛糾する場面こそ少ないものの、その後に影響を及ぼしそうな決定や報告が淡々と行われる。

もともと勤務校は会議体が多くて、小さな議題も会議にかけるので、会議に割かれる時間がとても長い。平常時は正直そこに不満を感じていたのだけど、コロナ対応が始まって以来、それに大いに助けられている。

会議の場を経た全体周知と、詳細を書いた文書の配付、これがないと「いまどのような前提で動いているのか」が分からず、余計な仕事ややり取りが発生してしまう(実際、小さな混乱もいくつかあった)。

緊急時の対応には想定外がつきものである。だからこそ「何を正とするか」という共通認識がないと判断がつかなくなる。

今まで嫌いだったけれど、文書主義、捨てたものではない。映画のこのシーンの捉え方も、僕の中で一変した。


「そもそも出世に無縁な霞ヶ関のはぐれ者、一匹狼、変わり者、オタク、問題児、鼻つまみ者、厄介者、学会の異端児そういった人間の集まりだ。気にせず好きにやってくれ」

そして巨災対

勤務校には今年度から「魅力化チーム」という校務分掌ができた。そのチームには「魅力化スタッフ」と呼ばれる通常の教員ではない(やや特殊な経歴の)スタッフが配置されており、業務内容は学校を魅力的にするための方策を立案・実施すること。…なのだが、今回はそのチームの方々の動きが巨災対そのものだった。

オンライン授業の実施提案、生徒へのネット環境調査、ネット環境のない生徒へのiPadWi-Fi等の送付、経過観察を行うホテルとの連絡、生徒や先生方へのZoomレクチャーなどなど、コロナ対応のキーとなる業務は魅力化チームがほぼ一手に引き受けていた。

「魅力化スタッフ」自体は、勤務校に何年も前からあった制度だ。だれど、これまでの魅力化スタッフは各校務分掌の所属で、魅力化のための仕事以外にも多くの担当が割り当たっていた。それを今年度から新たに「魅力化チーム」として集約したことが、今回の対応の大きなポイントになったのだと思う。

魅力化チームは決して巨災対のような「一匹狼、変わり者、オタク、問題児、鼻つまみ者、厄介者、学会の異端児そういった人間の集まり」ではないけれど、校務分掌という縦割りの学校組織や、教員という立場ではできない仕事の最初の一歩を進めるにあたって、魅力化チームの貢献は絶大だった。

 

「それ、どの役所に言ったんですか?」

という映画の中のセリフに表れるように、縦割り組織は想定外の事態への対処は初動がどうしても遅くなる。魅力化チームは、大きな対応方針を作成して校務分掌に仕事を回す、という役割を担うことで、初動の速さと計画の遂行を両立させた。

Zoomでのオンライン授業などが好例だ。魅力化チームが原案と方針を立てて基本的な環境を整備する、それを受けて教務部が詳細な計画をつくり教員に提示する、最後に教員一人ひとりが授業をそれぞれの工夫で実際に実行する、という流れで、良い意味で「緊急対応」を「ルーティーン」へと変容させる業務フローができていた。

巨災対も「ゴジラを転倒させて血液凝固剤を飲ませ、ゴジラを凍結させる」という大きな方針を立てたのは彼らだけれど、血液凝固剤の成分検討や大量生産、そして実際の作戦実行はすべて現場に任せて行っている。

映画には描かれていないけれど、巨災対と現場の関係は、今回の魅力化チームと各分掌の関係と似ていたのではないか、と思う。

巨災対のメンバーはもともと各省庁の所属で、それぞれに強いコネがある。魅力化チームも、昨年度までの仕事の中で各分掌の役割や仕事の進め方などが理解できている。そのことが、現場の納得を瞬時に取り付け、即座に実行に移すという流れを生み出せたのではないか。

 

「すごい…。まるで進化だ…」

コロナ対応はまだ終わっていない。

昨日と今日で、勤務校の対応もまた新たな状況へと変化した。
それも、今週1週間の動きを無にするくらいの大きな変化。


…だけど、今の勤務校の組織の形なら、何とかなるだろう、何とかやってやろう、と思えるから不思議だ。

「気落ちは不要。生徒を守るのが我々の仕事だ。再開だけが華じゃない。安全の確保を急がせろ」