旅する教師の業務報告

「旅する教師」として「みんなを自由にする」活動をしています。ご査収ください。

【話題】データの読み方、あるいは教員の辞め方のあれこれについて

「いやいや、ちょっと待てよ」

…と思った記事が上がっていた。

リンク先の記事を簡単にまとめると、論点は3つ。

  1. 2018年度、公立学校の教諭(正規採用教員)の1年以内の退職者が全国で431人となり、99年度以降、最多となった
  2. 退職者した431人のうち299人は自己都合による退職だが、104人は精神疾患を理由として挙げている
  3. 働き方改革が叫ばれているが、若手教員の負担は大きくなっており、支援等を充実させる必要がある

だそうだ。

 

……

いやいや。

「3」に議論を持っていきたい気持ちは分かるし、実際それは必要だとも思うんだけど、このデータはそんな話じゃあないでしょう。

てかそもそも、データの読み方を間違えすぎだ。

専門家でもない新聞記者の記事にあんまりつっこみすぎるのも野暮なんだけど、こういうデータに惑わされないようになるための数学の授業だと思って書いていこうと思う。

 

1. について

  • まず、なぜ退職者「数」で比較してるのか。
  • 教員の正規採用数は年度によって4倍くらいの差があって、最近は増加傾向。
  • つまり「採用数が多かったから退職者数も増えた」というだけの可能性もある、ということ。

詳細は、下記のページの図が詳しかった。1999年(平成11年)から採用数は2倍くらいになっている。

  • なので、データを公平に比較したいなら、本当は「退職率」で比べないといけない

 

  • で、「退職率」は記事の表によると「1.38%」なので、この値について議論をしなければならない
  • この値の解釈は難しい。なぜなら、一言でいうと「公務員の平均としては若干高いが、民間企業と比べると圧倒的に低い」からだ

参考:

  • 「公務員の平均よりは高い」と「民間企業より圧倒的に低い」は両方とも事実なので、どちらに着目するかによって議論は変わる

 

2. について

  • また、退職理由について着目すると、別の論点も出てくる
  • 「この431人は本当に『教員を辞めた』のか?」ということ
  • 教員の採用試験はおおむね都道府県・政令指定都市ごとに行われるので、ほかの都道府県・政令指定都市で教員になるときは、前の自治体を退職する必要がある(採用試験も受け直し)
  • なので、この統計で言う「退職者」には、「ほかの自治体で教員になるために教員を退職した人」が一定数含まれている

たとえば、神戸市出身の教員が『「兵庫県」で採用されていたけど、やっぱり「神戸市」で教員をしたい』となると、「神戸市」の採用試験を受け直したうえで「兵庫県」を退職することになる。

蛇足だが、僕もそのようにして福島県の中学教員から島根県の高校教員になった

  • 特に、上で挙げたように、最近は教員の採用数が上がっているので、「他の自治体の採用試験に合格したから今の自治体の教員を退職します」というケースも増えていると予想される
  • なので、退職者の「431人」および退職率の「1.38%」もどこまで妥当かは分からない

ちなみに、他の自治体の教員になる場合、退職理由が「自己都合」になるのは身をもって体験済みである。

なので、記事にある「299人」の自己都合退職者のうち、少なくない人数が「教員を辞めていない退職者」なのではないかと推測している。

  • ちなみに精神疾患による教員退職者の割合(0.33%)は、厚生労働省による統計(10〜29人の事業所:0.21%,30〜49人の事業所:0.28%)よりやや高いので、こちらについてはデータ上も「教員の精神疾患退職率は高い」と言える
  • てか、退職者「数」の増加よりも、どちらかというとこちらの方がニュース的に価値があったのでは……

参考にした統計はこちら

 

3. について

  • 「若手教員への支援の充実」という主張自体は構わないのだけど、上の議論からそれが導き出される気がしない
  • 唯一、それが導き出せそうな精神疾患による退職率の高さ(民間比較)に触れられていないのはとても残念
  • どちらにせよ、「支援の充実」をうたうなら「どのような支援を必要としているのか」の分析、つまり「退職の詳細な理由」についての分析が必要不可欠なので、それに言及できていないのも残念

 

  • うーん。。
  • やっぱりこの記事、データの読み方も使い方も微妙なんだよな…

 

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ネットニュースを読みながら、毎日こんなことを考えています。笑